【奨学生たちとのエピソード】


3.時間と約束を守るという感覚の弱さと計画遂行の甘さ
 

現地担当者となった私の駐在から1年が過ぎた頃、里親の皆様の里子訪問に際し、現地セブの身体障害者へ車椅子寄付式典を同時開催する事となった為、大学の奨学生たちを、その準備の為にボランティアとして参加させました。


               



が、その式典前日に、セブ市スポーツコンプレックスの室内競技場に寄付予定の車椅子を搬入するのに、20名の大学奨学生へ声を掛けていたにも関わらず、時間通りに集まって来たのは僅かに2名だったのです。やむを得ないので、更に1時間待つも、最終的に集まった人員は、合計5名…

全くもって、‘お話にならない’状態でした。

が、その時は運よく、その体育館に隣接するアベリアナ校(ハイスクール)の奨学生数名がその場に居合わせたので、彼らのクラスメートに助けを求めた事から何とか人員が集まり、搬入作業については、事無きを得たのでした。

翌日の式典では、早朝から会場設営の召集を掛けていたのですが、やはり遅れる者が多数に及び、その際も、偶々、早く会場に出て来た元々は会場設営には指名されなかった若年層の学生に救援を求め、その際も、どうにか形にはなったものの、言わば、薄氷を踏むような思いをさせられました。


                


その頃までに既に気付いていたのは、こうした事態になった場合でも、‘不思議に何故か何とかなるケース’が多い、フィリピンの事情でしたが、やはり、失敗するときは失敗する訳で、教育的な見地から、これを‘結果オーライ’で放置してはならないと感じた私は、そのイベント直後に緊急ミーティングを召集し、会場への車椅子搬入及び、会場設営の対象となっていた大学生20名全員をオフィスに集めて、叱りはしませんでしたが、一人ずつ、‘何故、来られなかったのか、(或いは、作為的に来なかったのか、)’事情の説明を求めました。


               



それまでに、‘責任感’と言う事については、レポート等を通じて、ある程度の教育はしてあった為、誰かのせいや状況のせいにする者は少なかったのですが、安易に、‘忘れていました’といった物言いをする生徒が大半を占めていたのには、少々、驚きました。


                   


また、その当日に学校の方で別の用事が入ったとの説明をする生徒もおりました。
更には、現地比人スタッフの連絡の仕方にも問題があり、特定の誰かに伝言を頼んだだけで、
その確認をする事を怠っていた事も発覚したのです。

私が、彼らに、まず、説明したのは、

『こちらは、あなた方への約束を違えた事はないよね?ちゃんと毎月、遅延する事なく、奨学金も渡して来たし、病気の時には必ず、その治療費も出して来たよね。皆、簡単に‘忘れた’と言うけれど、それじゃ、君たちが本当に切羽詰ってお金が必要な時に、僕が日本の本部からの送金を頼むのを忘れたから、奨学金の支給が出来ないって事になったら、君たちは困った事にならないのかな?』

更に続けて、

『それじゃ、例えばさ、時間通りに約束を守って来たら、漏れなく100万ペソを差し上げますよ…と言った話があった時、君たちは、そういう約束でも簡単に忘れてしまうのかな?それとも逆に極端な話だけど‘来なかったら、殺す’って話になっていたとしたら・・・、どうだろう?』
 
…そこまで話をすると、それに反論する者は誰一人居らず、皆、うつむいてしまいました。


           



『これはハッキリ言うけれど、もし、正当な理由があって、来られない、或いは、来たくないと思うなら、それを率直に言ってもらった方が、こうしたイベントを運営する側は助かるんだよね。事前に別要員を雇う事も出来るし。こちらは来ると期待していたのに君たちは来なかった…、準備も出来なかったというのでは、これは最悪だね。一旦、君たちが‘ハイ、来ます’と言う返事をしたのなら、君たちは、その時点で「責任」を負っている事になるんだよ。それが果たせない人間、そういう事を理解できないとしたら、この前も説明した通り、自立する事なんて、論理的に不可能だよ・・・』
 

            


…そんな話をすると、彼らの中には、涙をみせる者まで出て来ました。

考えるに、彼らがそれまで過ごして来た社会生活の中では、こうした責任の所在について話をされた事は、皆無だったようでした。説明して、理解して、皆、深く反省したと見た私は、特別な事情があった者と、約束を守って来た者以外は、一種の反省文を書く事を課し、その一件については終わりとしました。



その後、当方も「教育の推進」という立場から、やり方を変えて、彼らにイベントの企画から運営までを一貫してやらせてみると言う試みを始めました。そうです、彼ら一人一人が、自ら運営に携わっていると言う自覚と責任感を促すことにしました。それ故、そうしたイベントの際には、まずは学生間の役割分担から彼ら自身に決めさせて、事前ミーティングを2〜3回に渡って持つように、指導したのです。
 

              


その結果、事前の準備の際に正当な理由も無く出て来ないなんていう生徒はいなくなり、特別な事情があった場合には、出来ない事は出来ないと、きちんと説明できる生徒も少なからず出て来て、‘いい加減な返事はしない’…と言う習慣が過半数の生徒に付いたようでした。

そしてその流れは、イベントの際に行うミーティングを通じて、先輩から後輩へと、今も引き継がれています。




               



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