『 家族とは・・・ 』


      


今回は、ちょっとだけ‘お堅い’お話を…

 フィリピンは、物凄く貧富の差が激しい社会で、日本で嘗て良く言われたような‘一億総中流’…と言った意識の中では、この国の社会を理解する事は不可能です。

 具体的には、

         5%未満の富裕層。
         10%強のアッパーミドルクラス。
         8割方の貧困層…

こんな構造になっているのです。


       


 もっと具体的には、上位5%未満の富裕層が、その実、比国の総資産の70〜80%以上を握ってしまっていて、90%以上の‘その他の国民’が、残り20%程度の非常に限られたスペースに窮屈に押し込められている…こんな図式になるのです。


      


 ちなみにセブ島周辺の労働者の標準的な月収は額面12,000円あるかなしかで、このクラスで、稼ぎ手が家族の中にたった一人であれば、中流レベルにはありません。標準的な月収をとっている人間が中流ではない、否、貧困層に属している…この辺りが日本人には理解し難い所ですが、これがこの国の現実であり、この点が理解できれば、比国の社会構造が少し理解できたと言う事になると思います。
 

      


 そんな訳で、‘数の論理’から言っても、我々、日本人が交流を持つ人達は、良くてアッパーミドルクラス、通常は貧困層…こうした事になります。そんな訳で、タイトルにしました、‘家族とは’については、主に貧困層の御話として、捉えていただければ良いと思います。(富裕層は基本的に欧米型の個人主義。アッパーミドルクラスでも最近、特に、‘核家族化’が進みつつあります。)

 さて、既に御存知の方も多いとは思いますが、通常、比国の庶民(特に女性)にとって、‘家族’と言う言葉の意味は、‘自分の命’と、ほぼ同義になります。

 これまで、特に日本の男性諸氏には馴染みの深かった、フィリピーナのタレントさんたちは、多くの場合、上記の貧困層の出身です。比国に居ても高等教育を受ける機会も、‘文明人’としてやってゆけるだけの収入を得る機会も得られなかった彼女らが、家族の為に‘一発逆転’を狙って日本へ出稼ぎにやって来る…皆が皆、そうではありませんが、彼女らの多くが、こんな境遇にあったのです。


      


 それに似た事例として、最近では、我々がNGO活動の中、8年間に渡って修学サポートをして来た、現在23歳になる女性にある問題が起こりました。

 彼女(J:仮名)は、ボホール島の貧農階層の出(長女)です。小学校卒業後、半ば‘口減らし’の為、セブの親族へ里子(その実メイド)に出されましたが、その親族の理解もあって、学業を続ける事を許され、成績も優秀であった事から、我々の奨学生となりました。

 J は、中学4年間(*ここでは日本で言う高等学校がありません。)、大学4年間の計8年間を、本人の努力と我々のサポートにより、無事修了し、昨年には、めでたく、教員免状を取得しました。

 そして、昨年11月より半年契約で、小学校兼、中学校の教員見習いとして採用されました。こうした採用法は比国では一般的であり、本人の能力が認められれば、再度、半年の契約を結び、その後は本採用(契約期間無期限−定年60歳、給与20,000円+α)となる予定でした。

 しかし、当初、あくまでも見習いであったJの給与は月額手取で8,000円程度であり、本人一人がやって行くのであれば、何とかなるレベルですが、問題は、彼女のボホール島の家族が、Jに過分な期待をし、様々な要求を突き付けて来た事から始まりました。

 家族から要求がある度、Jは、私に連絡をして来て、

『 Sir, 私、どうしたら、良いですか…』

と聞いてきましたが、私の方は、

『兎に角、君が‘本採用’になるまで、家族には待ってもらいなさいよ。今、そんな事してたら、君がもたないでしょ!』

…と毎回々々、同じような助言をしたのですが、Jの頭にあった事は、

“家族が苦しんでいる。可哀想。何とかしなくっちゃ…”

…そんな事しか無かったようで、私が何を言っても、結局は聞く耳を持ちませんでした。

 家族を助ける事…それを否定する積りはありません。

 けれど、Jが‘まだ助走状態で、離陸に至っていないような状態’で、余計な負担がかかったら、どうなりますか?飛行機だったら、大事故になって、皆、死んでしまうかも知れません。Jのケースは、正に、‘それ’なのです。


       


 …で、結局、Jは、半年の契約満了をもって、勤めていた学校を辞め、今は、香港で月給4万円の住み込みメイドをしています。

 それで、家族が助けられるか…。いいえ!香港に就職を斡旋してもらった業者から多額の借金をして、諸手続きを進めた為、2年契約の内、8ヶ月は、その返済の為、ただ働きをしなければならない計算です。それに契約満了の2年後、一体、どうするのか?…それがサッパリ見えて来ないのです。

 それでも何とか、J は月々、やり繰りをして、家族へは、以前よりも若干多い金額を送金してはいるようですが…。

 まあ、私のように、“先進国で、なに不自由なく育った者には、何も分からない!”…と言われれば、それまでなのですが、それでも、やはり、腹が立つのは、Jの両親の事です。

 小学校卒業以来、8年間、それこそ、‘びた一文’払ってやらなかった娘が、よそ様の力を借りながら、自分で頑張って、何とか自立出来る芽を出したのに、何故、すぐさま、それを摘んでしまうような真似をするのか?何故、もう少し待ってやれないのか?

 また、本人Jも、8年間、親よりも、ずっと親身に世話をして来た人間の言う事が、何故、聞けないのか?

 その辺りの事は、‘文化の違い’と言ってしまえば、それまでですが、あまりにも
不条理だと、私は感じて居ます。

 文化の違いと、一言で片付けるのは簡単ですが、やり切れない思いが私にはあります。そして、また、そんな事例は、珍しい事でも何でもないのです。ここフィリピンでは…。



    次は・・・   「貧困が貧困を拡大させてしまう理由(わけ)・・・」


        


  (現地スタッフのブログより)


            
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