フィリピンの人々の暮らしと文化
【 仕事 】
フィリピンにもたくさんの仕事があります。公務員(役所のスタッフからポリス・教員etc・・・)、いろいろな商店のスタッフ、いろいろな工場のスタッフ、タクシーやジプニー・トライシクルのドライバー、道路工事や建設業のスタッフ、メイド、そして農業などと、その種類は日本とそんなには変わりません。
ですが、町には仕事もしないでブラブラしている人、特に働き盛りの男性がたくさんいます。フィリピンの女性は旦那さんの事をとても愛してしまうため「仕事に行くとそこで浮気するのではないかと考えてしまって、奥さんが働いて旦那さんは家で子供の面倒を見ている」といった話も聞きますが、実際はどうなんでしょうか・・・
問題点のひとつは、就業の契約期間が短いために(日本のように終身雇用のような形態ではない)先の不安がかなりある、ということです。ですが問題はもうひとつの方で、どの仕事も給料が安いということなんですね。大家族を支えるためにはあまりにも給料が少なすぎます。これは公務員などにも言えることで、そういうこともあって「袖の下」を公然と要求してしまう公務員も出てきてしまっています。
そして、高い給料を得る仕事に就くには高学歴・・・ようするに大学を卒業していなければ、そのチャンスすらない、という事実が大きく横たわっています。ですが、高学歴の末に職に就き、その後その職業による権力を自分の力と勘違いし、本来しなくてはいけない事をやらなくなったりとか、「袖の下」がなければやらないという悪しき慣習も蔓延ってしまっています。
そうした事柄は、取りも直さず、植民地時代の悪しき慣習が現代にまで、残ってしまっている為だと考えられます。要は、労働者は使い捨て、体制側=支配者と言う感覚が根強い結果だと思われます。
話を戻しますが、そういったこともあって、そういうチャンスの少ない人は段々仕事をする意欲をなくしてしまい、選ばなければある仕事にも手が就かなくなってきてしまう、といった悪循環があるようにわたしは感じます。
もうひとつ、フィリピンの仕事で忘れてはいけないのは、フィリピン以外の国で働くフィリピン人の方々の存在です(OFW)。フィリピン人は教育の過程で、英語がしゃべれるようになっていますので、高給を求めるために英語圏の外国に仕事を求める人もたくさんいます。フィリピン人の一番の特徴ともいえるホスピタリティを活かせる、看護師や介護士・メイドなどの仕事についている人も多いようです。
こうしたOFWと呼ばれるフィリピン人は、全世界に300万人以上いる(*一説には全国民の10%が海外に流失している)と考えられ、フィリピンの外貨獲得には切っても切れない存在になっています。
フィリピンは学歴社会のため「自分の弟や妹を大学に行かせて、立派な職業に就いてもらい、家族を支えるようになってもらいたい」と思い、その学費を捻出するために、自分のことは犠牲にして、これまで日本に来ていた人もたくさんいました。
ですが、こういったOFWの存在に、フィリピンの家族やそれこそ国家までが頼りすぎてしまって、自分達の家や国の中で、もっと仕事の事を考えなくてはいけないのに「今これでなんとかやっていけてるからいいか・・・」といった考えが起きてしまっているといっても言い過ぎではないように思います。
【 医療 】
フィリピンにもたくさんの病院があります。大都市周辺には最高の設備や医師がそろった大規模な病院もあります。ですが、日本でいうところの「医院」というのはあまり見かけることはありません。
残念な事に、フィリピンには(実はアメリカなどにも)日本のような完成度の高い社会保険や国民健康保険のような制度はないため、原則として、治療費は殆ど全額患者負担となります。これは、フィリピンの所得から考えますとかなり高額になってしまいます。こういうこともあって一時日本でも話題になりました「心霊的な治療や手術」や「自然のものを使う民間医療」もかなり浸透しています。
フィリピンでは病院内で薬を処方する事はなく、どこの街に行っても必ずある薬屋さんに行って病院で指示された薬を購入します。この薬屋さんが、ある意味フィリピンの医療そのものと言えなくもなく、アスピリンや抗生物質(アンチ・バイオテック)などまで購入できる事ができます(一部医者の処方がなければ売ってくれないものもあります)。
ですので、フィリピンでは「熱が出たり、おなかが痛かったりとなると、それにあった薬を買ってきて飲む」というのが普通の習慣となっています。わたしの経験では、どれも日本の市販の薬に比べるとかなり強いという感じを持ちます。そういうこともあり薬害というものもかなり起きているという事実も無視はできません。特に、そうした知識の無い貧困層の妊婦が医者にかかる余裕がないからと不用意に市販薬を服用した事が原因と考えられる子供への障害の発症が後を絶たたないのは問題です。
先ほど、医院のようなものは、ほとんど見かけないと言いましたが、歯医者さんは街のあちこちに見つけられます。ほとんどの所が、椅子ひとつに歯医者さんもひとりといった感じです。基本的には「悪い歯は抜いてしまおう」といった姿勢のようで、一般のフィリピン人たちにも歯を大事にすると言う意識は総じて低いように思われます。
【 結婚・出産・育児 】
フィリピンの結婚は日本のような「手続き婚」(まず最初に籍を入れる)といったものよりも、とりあえず一緒に住んでしまうという「事実婚」の方が多いです。その後書類上も結婚する人もいますが、そのまま籍を入れずにいてしまう人も多いようです。
フィリピンには日本のような「戸籍」とか「住民登録」というものはなく、生まれた時に所轄の役場に届ける「出生証明書」しかありません。これは親とか兄弟とはリンクされないで、あくまでその人個人を証明するだけのものです。そして、出産時にこの届けを出されていない人もたくさんいて、結局その証明書を取れないので結婚の手続きもしないということもあるようです。
特に庶民層においては、結婚をしたからといって、その時点で夫婦だけで自立できるカップルは稀で、そのまま親や兄弟達と一緒に暮らす場合が多いように思います。よって、家族の数がどんどん増えるということになっていきます。
出産は病院でも行いますし、少し前の日本のようにお産婆さん(フィリピンにはその地区に必ずそういうことのできるおばあさんがいます)に家に来てもらうこともできます。病院で産む場合でもだいたい出産後2日目には家に帰されてしまいます、が、これも出産後1週間も入院している国は日本ぐらいで、アメリカなどでも出産の次の日には帰宅することがほとんどです。
育児はある意味楽です・・・。なぜかといいますと、良い悪いは別として、庶民層は大家族だということで赤ちゃんの面倒を見てくれる人がたくさんいるということだからです。日本のように核家族でアパートに住んで、母親がひとりで朝から晩まで赤ちゃんの面倒を見ているなんていうのはフィリピンではありえません。(富裕層や上位中流層においては、貧困層からベビーシッター−子守−を雇うのが一般的です)
赤ちゃんは生まれると肌着に赤い木や布、ブレスレット等を着けます。これは魔よけのお守りのようです。母乳で育つ子もいますしミルクの子もいます。ですが、ミルクは庶民層では、日本で言うコンデンスミルクのようなものを飲む事が多いです。なぜなら日本などでも売っている赤ちゃん用のミルクは、日本で買うのと同じ値段がするからです。
オムツはパンパースに代表される‘紙オムツ’もありますがやはりこれも高価なため、庶民層では布のオムツを使っています。
少し大きくなると教会に行って洗礼(バプティズム baptism)を受けます。日本でいうとお宮参りのようなものでしょうか・・・。その後、家に親戚や近所の人を招いて食事をしてもらいます。フィリピンは誕生日や結婚式などもそうなのですが、祝ってもらう方が全ての準備をするというのが基本のようです。
一才の誕生日はその子の区切りとなるセレモニーのようで、大きな規模で行う人が多いです。司会やアトラクションなどもちゃんとお願いして、かなりのパーティーとなることもあります。近所の大人から子供まで、みんなで集まってその子の一才の誕生日を祝う姿は、日本人がむかしは持っていたのに、今は忘れてしまった何かを思い出させてくれるようで、とても感動します。
【 近所付き合い 】
フィリピンの庶民層では、日本の少し前ぐらいの感じの近所づきあいが、今でも日常的に行われています。
これはやはり、経済的にはまだまだ豊かではないということで、いろいろと助け合って生きていかなくてはいけないという理由もあると思います。ですが、それ以上にフィリピンの人は、おしゃべり好きで、人の面倒見が良いという性格の人が多いのがいちばんの理由かなと感じます(たまにはおせっかいすぎて閉口してしまう事もありますが)。
フィリピンの人は、歩いていて知人にあったりした時に、会釈をしたり立ち止まって挨拶をしたり手を振ったりということはあまりしません。フィリピン式の簡単な挨拶は「眉毛を上下させる」というアクションをします。普通のときでしたら、これでぜんぜん失礼にはあたらないようです。
かなりあらたまった挨拶の仕方に、年長者に対して尊敬の意を表す挨拶の身振りで、年長者の前でひざまずき、右手を両手で持って、自分の額に押し付けるマノポというやり方があります。子供が外から帰ったときに、両親や祖父母に対して行うのが普通です。
このようにフィリピンには年長者を敬い、なおかつ敬語を使うという日本人のメンタリティーに非常に似た部分もあることがわかります。
フィリピンには、日本でいう隣組よりも大きく町内会よりも小さい「バランガイ」という組織があります。バランガイにはリーダー(バランガイ・キャプテン)がいてこれは地域住民の選挙で選ばれます。隣近所での揉め事や時には家庭内の揉め事の相談などもここに持ち込まれます。バランガイ・キャプテンは、揉め事の当事者をその事務所に呼びつけたり、自分から出向いて行ったりして、事情を調べ、解決策を考えます。非常に現実的でなかなか面白いシステムだと思います。
【 買い物 】
フィリピンには、日本でも最近見られる様になった郊外型の大規模なショッピングアーケードが、ある程度の都市には必ずあります。フィリピンではそれを「ショッピングモール」と呼んでいます。これは日本でもこの頃増えているメインのテナントに何かひとつ入っていて(日本ならヨーカドーとかジャスコのような)それを中心にいろいろな専門店が軒を連ねるといったものです。
ここでは生活に必要な食料品から衣類・日用雑貨・電化製品までありとあらゆるものが揃います。食料品店は日本のスーパーマーケットとそんなに変わらず、日本食(インスタントラーメンやカレーのルーとか)も売っています。また、ファーストフードからやや高級なレストランまで、飲食店もたくさんあります。スケート場やボーリング場が入っているところもあり、フィリピンの人のいちばんの娯楽の映画館は必ずといっていいほどその建物の中にもあります。
こういったある程度の大きさのお店のほかに、それぞれの地域に野菜や肉・魚から衣類・雑貨まで売る市場のようなスタイルのマーケットが必ずあります。ここにはいろいろな人が自分のスペースを持っていて、自分達で育てたり、仕入れた野菜や肉・魚などをお客さんの欲しい分量だけ売るというシステムで、日本のように、パック等に分けて売っているのではありません。朝はかなり早く、陽が昇る前から始まり、夕方に行くと欲しいものは売り切れということもあります。
肉・魚・米を中心とする食料品はだいたい日本で売っている金額の5〜10分の1程 度の値段です。野菜は元々現地で栽培されて来た熱帯性のものは先の例の通り安 価ですが、日本で見掛ける葉物野菜、玉葱、ジャガイモ等の温帯性の根菜類は寧 ろ割高になります。また、フィリピン国内では酪農が殆ど行われていない為、乳 製品は輸入が主となり、価格は日本のそれと変わらないか割高になっています。 (例えば、日本で普通に飲まれる牛乳は、フィリピンでは、液状のものを‘フ レッシュミルク’と呼び、庶民にはぜいたく品で、まず口にする機会がありません。
彼らが‘ミルク’と呼ぶのは、通常フレッシュミルクに比べると質の劣る粉ミ ルクの事です)また、卵の価格も日本のそれと殆ど変わりません。衣類も通常の 食品群と同じく日本での販売価格の5〜10分の1程度と割安感がありますが、その 他の雑貨、消耗品、家電、耐久消費財他の値段は日本と同じくらいか割高になる 事が多いです。
そういったお店とは別に、フィリピンには「サリサリ・ストアー」というお店があります。これは住まいに隣接している事が多く(住まいの一部を改造したりしている)、日本でいちばん似ているのは、むかしの駄菓子屋さんでしょうか・・・。多くの場合、お店の中にはお客さんは入る事ができず、鉄格子のようなもので仕切ってあります。中に人がいて外でお客さんが頼んだものを渡して売るというスタイルになっています。
売り物には子供のキャンディーやビスケットのようなものから、シャンプーやコンディショナー・洗濯洗剤(これらは一回用に小さく分けられている奴で、フィリピンでは大きいものを買うよりも、1回1回 そういった物を買って使うという習慣もあります)・コーラなどの清涼飲料水・ビニール袋に水を入れて凍らせてある氷・卵や米・お酒・タバコなどいろいろなものが売っています。
【 人々の食べ物・偏見・外食編 】 ・・・